普段、私たちが風邪薬や胃薬を飲むとき、その薬がどんな歴史を辿ってきたか考えたことはありますか? 実は、今精神科や心療内科で使われている薬の中には、「最初は全く違う病気を治すために作られた」という、驚きの経歴を持つものがたくさんあるんです。
今回は、まるでキャリアチェンジに成功した転職組のように、全く違う分野で活躍することになった、ユニークな薬のエピソードをいくつかご紹介します!
1. 胃潰瘍の薬が「元気が出る薬」に!:ドグマチール
ドグマチール(一般名:スルピリド)は、現在、うつ状態や心身症の治療に使われることがあります。しかし、この薬が最初に開発された目的は、なんと胃潰瘍の治療薬でした。
発見のきっかけは患者さんの「口コミ」
胃薬としてドグマチールを飲み始めた患者さんたちから、「胃の痛みが治っただけでなく、なんだか気分が明るくなった」「最近、やる気が湧いてきた」という声が次々と寄せられ始めたのです。
医師たちは、この薬が胃だけでなく、脳内のドパミン神経にも作用していることに気づきました。結果、「胃の粘膜を守りつつ、気分も前向きにできる」というユニークな特性が評価され、精神科の治療薬としても採用されるに至ったのです。
まさに、「副作用」が「主作用」に転じた、異色のキャリアチェンジ成功例ですね!
2. 溶媒が主役に大抜擢!?:バルプロ酸(デパケンなど)
てんかんや双極症の気分安定薬として有名なバルプロ酸ナトリウム(デパケンなど)の発見は、科学実験における**「超・偶然の産物」**として知られています。
ただの「溶かす液」に秘められた力
この薬は、元々は実験で使う**「溶媒」**、つまり他の化合物を溶かすための単なる液体でした。
ある研究者が、てんかんを抑える作用を持つ新しい化合物を探す実験で、テスト薬をこのバルプロ酸に溶かして動物に投与しました。すると、てんかん発作が驚くほどよく抑えられたのです。当初、研究者は「テスト薬が効いた!」と考えましたが、よく調べてみると、溶かした液体であるバルプロ酸そのものに、強力な抗てんかん作用があることが判明しました。
脇役として使われていた液体が、実は主役級の薬効を持っていたという、ドラマのようなエピソードです。
3. あがり症の味方、心臓の薬!:プロプラノロール(インデラルなど)
高血圧や不整脈の治療に使われるプロプラノロールは、多くのパフォーマーや人前で話すプロにとっての隠れた味方です。
身体の「緊張反応」を切り離す
人前で緊張すると、心臓がバクバクしたり、手のひらに汗をかいたり、声が震えたりしますよね。これは「不安」という感情が、体の交感神経を過剰に刺激している状態です。
プロプラノロールは、この交感神経の働きの一部を穏やかにするβブロッカー。この薬は心の不安そのものを消すわけではありませんが、心拍数の上昇や震えといった**「身体の反応」だけをピンポイントで抑えます**。
動悸が静まると、「あれ? 意外と大丈夫かも?」と心が落ち着きを取り戻しやすくなります。**「不安と体の反応を切り離す」**という発想で、あがり症の身体症状をコントロールする、賢い転用例です。
おわりに
薬の世界も、まるで人間のキャリアと同じで、どこでどんな才能が開花するかは分からないものですね。これらの薬は、一つの病気だけでなく、私たちの心の安定を助ける大切な存在となっています。
専門家と相談しつつ、あなたの心身に合った薬や生活習慣を見つけて、無理のない毎日を送りましょう!

