福岡市早良区にある就労継続支援A型B型事業所つなぐです。
精神疾患を抱え、日常生活や仕事に大きな支障がある。そんな時、『障害年金』という言葉を耳にしても、一体どうすれば受け取れるのか、自分は対象になるのか、不安に感じている方もいるかもしれません。障害の原因となった傷病について「初診日」を確定して、保険料納付要件を満たしていることが分かったら障害年金を申請できますが、この記事では精神障害の障害年金申請で最も重要となる『認定基準』と、その審査のポイントをわかりやすく解説していきます。認定基準は医師の障害状態確認届(診断書)等をもとに総合的に審査されます。
1.「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」はゴールに辿り着くために、医師が診断書を作成し、年金機構が審査する際の「評価方法(プロセス)」を示しています。2.「障害認定基準」は、年金を受給できるかどうか、そして何級になるかという「ゴール(結果)」を示しています。
1.「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」
障害年金の審査では、厚生労働省が定める『精神の障害に係る等級判定ガイドライン』に基づき、医師の診断書の内容が評価されます。このガイドラインが、年金機構の『障害認定基準』に示される各級の判断に大きく影響するのです。
「精神障害に係る等級判定ガイドライン」(厚生労働省)
日常生活能力の判定
「日常生活能力の判定」では、7項目について、それぞれ4段階で支障の有無や程度を評価します。例えば「食事は一人でできるか」「薬を自分で管理できるか」といった項目です。
| 等級 | 統合失調症の場合 | 気分(感情)障害の場合 | 障害の状態の目安 |
|---|---|---|---|
| 1級 | 高度の残遺状態または高度の病状があるため、高度の人格変化、思考障害、妄想・幻覚等が著しく、常時の援助が必要。 | 高度の気分、意欲・行動の障害および高度の思考障害が持続または頻繁に繰り返し、常時の援助が必要。 | 日常生活が不可能で、常に援助が必要 |
| 2級 | 残遺状態または病状があるため人格変化、思考障害、妄想・幻覚等があり、日常生活が著しい制限を受ける。 | 高度の気分、意欲・行動の障害および高度の思考障害が持続または頻繁に繰り返し、日常生活が著しい制限を受ける。 | 日常生活に著しい制限があり、援助が必要 |
| 3級 | 残遺状態または病状があるため人格変化は著しくないが、思考障害、妄想・幻覚等があり、労働が制限を受ける。 | 高度の気分、意欲・行動の障害および高度の思考障害があり、病状は著しくないが、持続または繰り返し、労働が制限される。 | 労働能力に制限があり、一部の仕事が困難(障害厚生年金のみ) |
日常生活能力の程度
日常生活能力の判定
この判定では、
- 食事清潔保持
- 金銭管理
- 通院・服薬
- 対人関係
- 身辺の安全保持
- 社会性
という7項目を、それぞれ『できる』『おおむねできる』『援助があればできる』『できない』の4段階で評価します。例えば、『一人で食事の準備や片付けができるか』『決まった時間に服薬できるか』『公共交通機関を一人で利用できるか』といった、具体的な行動能力が問われます。
日常生活能力の程度
「7項目の判定結果を総合して、『日常生活能力の程度』を5段階(1:良好、2:おおむねできるが援助が必要、3:かなり困難で援助が必要、4:ほとんどできない、5:不可能)で評価します。これは単に症状の有無だけでなく、『その症状が、実際の生活にどれだけ影響を及ぼしているか』という生活能力の障害度合いを判断する上で非常に重要です。」
2.『障害認定基準』
日本年金機構が公表している資料を見ていきましょう。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-1-8.pdf(PDF)より
| 障害の程度 | 障害の状態 |
| 1級 | 1.統合失調症にあるものにあっては、高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験が著名なため、常時の援助が必要なもの 2.気分(感情)障害によるものにあっては、高度の気分、意欲・行動の省が及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の援助が必要なもの |
| 2級 | 1.統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があるため人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活が著しい制限を受けるもの 2.気分(感情)障害によるものにあっては、高度の気分、意欲・行動の省が及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの |
| 3級(障害厚生年金) | 1.統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があるため人格変化の程度は著しくないが、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があり、労働が制限を受けるもの 2.気分(感情)障害によるものにあっては、高度の気分、意欲・行動の省が及び高度の思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限されるもの |
なお精神障害での基礎年金の令和5年度新規裁定の1級と2級の割合は、それぞれ1級7.1%、2級61.2%(非該当5.2%)程度です。このデータから、精神障害による障害年金の多くが2級に認定されていることがわかります。特に就労継続支援事業所で働いている方は、日常生活の困難さから2級に該当するケースが多い傾向にあります。(参照:障害年金業務統計[令和5年度決定分])
1級と2級の違いは主に「常時の援助が必要」(1級)か「日常生活が著しい制限を受ける」(2級)かとなります。
ご自身の障害の程度がどのくらいかは担当医と話して診断書に記載してもらいますが、診察の制限された時間内に症状を医師にうまく伝えられないこともあります。その点、社会保険労務士は時間をかけて聞き取りを行ってくれるので、状態を伝えられるか不安な方は障害年金を得意としている社労士に依頼されるのもいいでしょう。
3.まとめ
障害年金の申請において、最も重要となるのが、あなたの症状や日常生活の困難さを正確に反映した医師の診断書です。特に、年金機構が重視する「日常生活能力」の項目は、審査の合否に大きく関わる部分です。
診断書に記される「日常生活能力」の判定項目(食事、清潔保持、金銭管理、通院・服薬、対人関係、身辺の安全保持、社会性)は、あなたが日常生活で直面している具体的な困難を伝えるための鍵となります。診察の限られた時間で医師に的確に伝えるためにも、日頃から困っていることや、援助が必要な状況をメモにまとめるなどして、要点を整理しておきましょう。これは、ご自身で申請を進める上で、診断書の内容に影響を与えられる数少ない大切なポイントです。
もし、ご自身の病状や困難な状況を医師にうまく伝える自信がない場合、または申請手続き全般に不安を感じる場合は、障害年金に詳しい社会保険労務士のサポートを検討してみてください。社労士は、「日常生活能力」について専門家の視点から客観的なアドバイスを提供し、あなたの状況を丁寧に聞き取ってくれます。そして、診断書作成のアドバイスから複雑な請求手続きの代行まで、適切な障害年金受給への道筋を強力にサポートしてくれるでしょう。
ご自身の状態が最も厳しい時期に、複雑な書類作成や手続きを進めることは、精神的にも体力的にも大きな負担となります。しかし、障害年金は、金銭的な不安を軽減し、あなたが安心して生活を送るための大切な支えとなります。焦らず、一つ一つのステップを丁寧に進めていきましょう。
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