福岡市早良区にある就労継続支援A型B型事業所つなぐです。今回は自分で請求する障害年金の障害の対象となる精神疾患について詳しく見ていきます。
はじめに
これまで、障害年金の請求を進めるにあたり、まず重要な「初診日」の確定、そして「保険料納付要件」の確認について解説してきました。また、精神障害の障害年金請求で最も重要となる『認定基準』と審査のポイントについても触れています。
- 用語補足
- 初診日:障害年金の審査において基準となる、最初に医療機関を受診した日
- 保険料納付要件:一定期間内に年金保険料を納めている必要があるという条件
- 認定基準:障害年金の支給を判断するためのルールや評価項目
これらの条件を満たした上で、「ご自身の病気や障害がそもそも障害年金の対象になるのか?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。今回の記事では、障害年金の対象となる精神疾患、知的障害、発達障害、そして神経症について、具体的な診断名と、それらが障害年金の対象としてどのように評価されるのかを詳しく解説していきます。
障害年金が対象とする精神疾患等の範囲
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事に支障が出た場合に支給される制度です。精神的な不調や知的・発達上の特性も、その程度によっては障害年金の対象となります。重要なのは、診断名そのものよりも、それによって日常生活や社会生活にどれだけの支障が出ているか、という点です。
- 用語補足
- 日常生活能力:日々の生活をどれだけ自力で送れるかを測る指標
診断名と実際の生活への影響
障害年金の審査では、単に特定の診断名があるだけで自動的に認定されるわけではありません。ご自身の病気や障害が、日常生活や就労にどの程度影響を及ぼしているかを、医師の診断書と病歴・就労状況等申立書で具体的に示すことが求められます。
しかし、まずはどのような診断名が対象となり得るのかを理解しておくことは重要です。
精神疾患
障害年金の対象となる主な精神疾患は以下の通りです。これらはあくまで一般的な例であり、個々の症状や生活への影響によって判断されます。
- 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
- 幻覚や妄想、思考能力の障害、意欲の低下などが特徴です。
- 気分(感情)障害(双極性障害、うつ病など)
- うつ病: 気分が落ち込み、意欲や集中力が低下するなどの症状が持続します。
- 双極性障害: うつ状態と躁状態(気分が高揚しすぎる状態)を繰り返します。
- 症状性を含む器質性精神障害
- 脳の病気や損傷(脳卒中、頭のケガ、アルツハイマー病など)が原因となって、記憶力や判断力の低下、感情の変化など、精神的な症状があらわれる状態を指します。
- てんかん
- てんかん発作によって意識障害や身体のけいれんなどが繰り返し起こり、日常生活に支障をきたす場合です。
- その他の精神疾患
- ストレス関連障害(心的外傷後ストレス障害PSTDなど)、摂食障害、睡眠障害など、広範囲の精神疾患が対象となり得ます。これらは一般的に、その症状が「長期間持続し、かつ日常生活または社会生活への制約がある」場合に認定の対象となります。
知的障害
知的障害(精神遅滞)は、発達期までに生じた知的機能の障害により、日常生活や社会生活に継続的な支障が生じる状態を指します。
- 出生日が発症日: 知的障害の場合、出生日が初診日(発症日)として扱われます。そのため、保険料納付要件は問われません(「20歳前傷病による障害基礎年金の請求」の特例が適用されます)。
- 療育手帳の有無: 療育手帳を所持している方も多くいらっしゃいますが、手帳がなくても、医師の診断書や発達の経緯を示す資料によって障害年金の請求は可能です。
- 用語補足
- 療育手帳:知的障害のある方に交付される手帳で、支援やサービスを受ける際の証明になるもの
- 用語補足
発達障害
発達障害は、生まれつきの脳機能の特性によるもので、社会性やコミュニケーション、行動などに特性が見られます。
- 知的障害を伴う場合: 知的障害を伴う発達障害の場合、出生日が発症日となり、保険料納付要件は問われません。
- 知的障害を伴わない場合: 知的障害を伴わない発達障害(例:ASD、ADHDなど)の場合は、精神疾患と同じく、最初に医療機関を受診した日が初診日となります。この場合、初診日時点での保険料納付要件を満たす必要があります。
- 用語補足
- ASD:自閉スペクトラム症
- ADHD:注意欠如・多動症
- 用語補足
神経症の場合
パニック障害、強迫性障害、社交不安障害などの神経症も、障害年金の対象となり得る場合があります。ただし、神経症は精神病とは異なり、原則として障害年金の支給対象とはされていません。
- 用語補足
- 精神病と神経症の違い:精神病は現実との認識に重大なズレが生じる状態(幻覚、妄想など)が中心となるのに対し、神経症は不安・恐怖などの心の不調が中心です。
しかし、以下のいずれかの条件を満たすと判断された場合には、例外的に認定の対象となる可能性があります。
- 精神病の病態を併発していると判断される場合
- 神経症と診断されていても、その症状が幻覚、妄想、思考の障害といった「精神病の症状」を伴っていると医師が判断し、診断書に明記されているケースです。
- これは非常に専門的な判断となりますが、単なる不安や恐怖の範疇を超え、現実との乖離や異常な体験を伴うような状態がこれに該当し得ます。
- 精神病と変わらない程度の著しい日常生活の支障がある場合
- 神経症の症状によって、日常生活や社会生活に極めて重篤な支障が生じていると判断される場合です。
- 例えば、重度の強迫行為により外出が全くできず、身の回りのことすら満足に行えない、極度の不安から食事も睡眠もとれず、常に誰かの介助が必要な状態が持続している、といった、日常生活能力が「精神病と同程度に著しく低下している」状況がこれに当たります。
神経症での請求は、他の精神疾患に比べて認定のハードルが高い傾向にあります。そのため、ご自身の症状がこれらの条件に該当する可能性があるか、担当医と十分に話し合い、日常生活で困っていることを具体的に伝え、診断書に反映してもらうことが非常に重要です。神経症のケースでは自力の請求は困難であると思われます。ご自身で請求手続きを進められそうにない場合は社会保険労務士に相談をおすすめします。
医師の診断書の重要性
どの種類の障害であっても、障害年金の請求には、ご自身の状態を正確に、かつ具体的に記載された医師の診断書が不可欠です。
特に精神疾患、知的障害、発達障害、そして神経症の場合、目に見えない症状や特性が多いため、医師が日常生活や就労における困難さを正しく理解し、診断書に反映させることが重要になります。
- 日頃からのメモ: 診察の時間が限られている中で、ご自身の困りごとを医師に的確に伝えるためにも、普段から「具体的に何に困っているか」「どのような援助が必要か」などをメモにまとめておくことをお勧めします。これは、「自分で請求する障害年金(4)」でもお伝えした大切なポイントです。
まとめ
障害年金の対象となる精神疾患、知的障害、発達障害、そして神経症は多岐にわたります。重要なのは、診断名だけでなく、その障害がご自身の日常生活や社会生活にどれほどの支障を与えているかという点です。特に神経症の場合は、精神病に準ずる病態があるか、または同程度の著しい日常生活の支障があるかがポイントとなります。
ご自身の状態が障害年金の対象になるか不安な場合は、まずは医療機関で相談し、適切な診断を受けることが第一歩です。そして、今回の記事でご紹介した対象疾患の範囲を参考にしながら、具体的な請求準備を進めていきましょう。
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自分で申請する障害年金(4)-障害基礎年金に該当する状態(精神)-
自分で請求する障害年金(5)-障害年金の対象となる精神疾患等-

